おかかえのあたま

ぐれたりぐれなかったり

意識消失の話

発病後、たまに倒れることがある。

 

 

初めてのときは確か会社の研修中だったと思う。自宅内で意識がなくなっていても気付かれないのでわからない。研修中は倒れた挙句、血まみれになって救急車のお世話になってしまった。記憶は全くないが、救急車に乗る前も搬送中も「止血終わったら戻ります」と連呼していたらしい。くそ真面目か、社畜か、ただの馬鹿か。

この年は何度も倒れた。会社からはてんかんの疑いをかけられ、産業医面談、関係病院での精密検査、てんかん発作防止の処方、自宅待機命令、最終的には不幸な事態に陥った。結論から言うと、てんかんではなかった。会社に振り回され、気の違った両親に振り回され、毎日キレそうだった。当時の精神科の主治医は非常に優秀な人で、あとあとわたしの上司と母親を呼んでめちゃくちゃに怒ってくれた。完全に転移が起きているものの、わたしが意見をしづらい人間に対し、理論的かつこの上なく辛辣なことばを使ってくれたのでもうそれだけで十分であった。後にわたしの弁護士もこの医師のことは非常に優秀な精神科医だろうと評していたので、やはり優秀なんだろう。周りの人間に恵まれた。

 

会社を去ってからも何度か意識がなくなった。なんとなく目の前が青や紫になって、脳みそが顆粒になるような感覚があると倒れるのは予想できるが、元気に歩いていて気付いたら知らないベッドや椅子の上ということもあった。倒れるあたりで共通しているのは予想の可否に関わらず、顔面蒼白になり、大量の汗をかき、大抵手足が硬直することである。体感温度も高い。まあ、交感神経が天元突破してしまったということなんだろうが、詳しい仕組みは不明である。原因は強いストレスとのことで、解離性障害の疑いありとの診断も出ていた。今となっては診断名もどうでもいい。

わたしは単純な意識消失のみだが、世の中の創作物で大人気の多重人格も解離である。要するに強いストレスから逃れるために意識を飛ばして脳を緊急停止するのを本人は意識が飛んでいる状態にして、別の人格を作ってやり過ごそうとするとそうなるらしい。もちろん、現実の本物の症例は僅かである。まあ、多重人格の多い世の中なんて終わっているので症例は少なくていいと思う。突発性難聴失声症も解離の手前なんじゃないかと思っている。医学的な根拠はない。脳への重圧が身体に出てしまう状態という意味でそう考えた。

 

 

さて、先日1年ぶりか2年ぶりかとにかく久々に倒れた。無論、今は無職でストレスフリーのはずなので、おそらく連日調子に乗って出歩き、睡眠を取らず、水分補給を怠ったため、疲労と熱中症の複合的原因だと思う。 夕方あたりに立っていられなくなり、例に漏れず、大量発汗&顔面蒼白に吐き気と手足の硬直でうずくまっていたら、近くのおねえさんが水を買ってきてくれた。他にも誰かと待ち合わせをしていたであろう女性が「近くに気持ち悪そうにしている人がいるから、よくなるまで動けない。来てくれ」と電話を掛けているのか、誰かに呼び掛けているのか、そんな声も聞こえた。申し訳ないが、他人が何をしているかなんて気にする余裕もなく、目の前は青と紫でいっぱいになり、頭の中はすっかり顆粒になってしまった。

気付けば駅員室におり、相変わらずの吐き気やら、身体の強張りやらで大体の事情は理解した。水を飲めども飲めども、吐き気が止まらず、とち狂った体感温度のおかげで冷房の効いた室内でひとり馬鹿みたいに汗をかいていた。薬を飲んでもほぼ意味がなかった。

知らない方々にまた迷惑をかけてしまった。これもまた記憶にないことだが、付き添ってくれた見知らぬ人や駅員さんたちには「救急車は呼ばないでほしい」と言っていたらしい。一度目の搬送は帰宅時に親族の迎えが必須で、他県で研修をしていたわたしは呼べる親族もおらず途方に暮れていたところ、会社が緊急連絡先である当時学生だった兄弟に連絡を取り、東京から迎えに来てくれたことがあった。未だにどこかでそれが引っ掛かっているのだと思う。あれはこの上なく申し訳なかった。病院関係者の憐れむような話し方と迷惑そうな表情と、自分の状況の情けなさと不甲斐なさと、通常運転のメンヘラ的な絶望があった。

あれ以来、「親族呼べ」系に発展しそうな事柄は全て避けて生きてきた。見知らぬ人に迷惑をかけるのは論外として、兄弟ならば迷惑をかけていいのか、難しいところである。誰にも迷惑をかけずに過ごしたい。こうなると「死んだ方が長期的には迷惑をかけずに済むのでは?」と思わざるを得ないが、話すと兄弟を失望させかねないのでここに書くだけに留めておく。

 

 

 

結局、この日は人と待ち合わせをしていたが、ゴミみたいな遅刻をかましてしまった。わたしの体調はどうなろうがそれはわたしの問題だが、他人の時間を奪ってしまったらその人の時間は戻せないのである。再び脳みそが溶けそうなくらい申し訳なかった。

遅刻をしても待っていてくれたし、倒れたときに付き添ってくれた見知らぬ方々やら水を買ってきてくれた方やら、世の中の人たちはやさしい。やさしさにかまけてまた倒れることのないようにしたい。

 

 

 

薬と経口補水液、忘れず持っていこうね。

 

 

 

 

   

しゅわしゅわの頭とウィルキンソンジンジャーエール

あぐれ